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株式報酬による中長期インセンティブプラン

主に上場企業で役員報酬における中長期インセンティブとして、株式報酬の導入が拡大しています。

デロイト トーマツ グループ発表の『役員報酬サーベイ(2020年度版)』によると、東証一部上場企業を中心とした回答企業のうち、63.0%の企業が株式関連報酬を既に導入しているとなっています。導入割合については、企業規模にある程度比例すると考えられますので、大企業は大半の会社が導入している一方、二部上場や新興市場など中規模以下の上場企業については、まだ検討中といった会社が少なくないでしょう。

そもそも、役員に対する中長期インセンティブといっても、株式報酬に限りません。中長期の業績や株価に連動していれば、現金による報酬でもよいのです。事実、制度設計の複雑性や導入・運用コストなどを考慮すると、中規模以下の企業では、株式報酬の導入を躊躇するケースもあるでしょう。

しかし、中長期インセンティブとして、株式報酬が拡大している最大の理由は、株主目線にあります。もちろん、中長期の企業価値向上に対して、経営層の意欲が高められればよいのです。ただし、企業価値向上という場合、一般的に役員陣は「業績を高めること」と捉えるのではないでしょうか。ところが、株主から見た場合、「業績を高める」だけでは不十分です。その結果、「株価が上がる」必要があるのです。 役員が株式報酬などにより自社株保有することで、「業績を高めることと同時に、さまざまな施策を通じて株価を高めること」へのインセンティブを高めようという狙いがあるのです。

国も、株式報酬の拡大を後押ししています。たとえば、平成29年(2017年)の税制改正により、株式報酬などインセンティブ報酬に対して、損金算入(経費計上)できる範囲が、大幅に認められるようになりました。

経済産業省作成の『「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~(2020年9月時点版)』によると、以下の通りです。

在任時

報酬の種類 報酬の内容 交付資産 損金算入可否
平成29年度
改正前
平成29年度
改正後
特定譲渡制限付株式 一定期間の譲渡制限が付された株式を役員に交付 株式 可能 可能
(①類型)
株式交付信託 会社が金銭を信託に拠出し、信託が市場等から株式を取得、一定期間経過後に株式を交付 株式 不可 可能
(①類型又は②類型)
ストックオプション(SO) 自社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利(新株予約権)を付与 新株予約権 可能 可能
(① 類型又は②類型)
パフォーマンス・シェア(PS) 中長期の業績目標の達成度合いに応じて、株式を役員に交付 株式 不可 可能
(② 類型)
パフォーマンス・キャッシュ 中長期の業績目標の達成度合いに応じて、現金を役員に交付 金銭 可能(単年度で利益連動の場合のみ。一定の手続 が必要) 可能
(② 類型)
ファントム・ストック 株式を付与したと仮想して、株価相当の現金を役員に交付 金銭 不可 可能
(② 類型)
ストック・アプリシエーション・ライト(SAR) 対象株式の市場価格が予め定められた価格を上回っている場合に、その差額部分の現金を役員に交付 金銭 不可 可能
(② 類型)

退職時

報酬の種類 報酬の内容 交付資産 損金算入可否
平成29年度
改正前
平成29年度
改正後
退職給与 退職時に給付する報酬 金銭・株式・新株予約権 可能 可能(業績連動)の場合は② 類型の要件を満たすことが必要)
  • ※ ①類型・・・一定の時期に確定した金額又は数を交付する役員報酬。原則として税務署への事前届出が必要。
    (法人税法第 34 条第 1 項第 2 号)
  • ②類型・・・業績(利益、売上高、株価等)に連動した金銭、株式等を交付する役員報酬。報酬諮問委員会への諮問や有価証券報告書での開示等の手続が必要。 (法人税法第 34 条第 1 項第 3 号)

役員の中長期インセンティブとして、注目を浴びている株式報酬ですが、これから導入を考えている会社においては、慎重に検討・判断すべきです。トレンドだからという理由だけで安易に導入することは、避けなければなりません。

たとえば、既に役員陣が自社株式を一定数保有している場合は、株価を軽視するようなことはないでしょう。あるいは、役員報酬水準が低い会社の場合、現金報酬を引き上げることの方が先決かもしれません。よく役員報酬問題を論じる際、「日本の上場企業は、欧米企業に比べて、固定報酬の割合が高く、業績報酬や株式報酬の割合が少なすぎる」といったことが言われますが、そもそも報酬水準に大きな隔たりがあります。

グローバル企業である大企業はともかく、中規模以下の上場会社においては、自社の役員報酬制度にとって優先すべきテーマは何であるか? 再度問い直した上で、株式報酬を検討すべきと考えます。

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