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上場企業における役員報酬関連法令チェック

主に上場企業で役員報酬制度を考える際、チェックしておく必要のある法令などを紹介します。

2021年3月1日に施行の改正会社法で、以下のような役員報酬に関するルール改定が行われました。

改正会社法

会社法の一部を改正する法律の概要(法務省サイトより抜粋)

  • 取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととするとともに,上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設けることとしています。
  • 役員等にインセンティブを付与するとともに,役員等の職務の執行の適正さを確保するため,役員等がその職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を株式会社が補償することを約する補償契約や,役員等のために締結される保険契約に関する規定を設けることとしています。
  • 我が国の資本市場が全体として信頼される環境を整備するため,上場会社等に社外取締役を置くことを義務付けることとしています。

これで、会社法という法律レベルで、上場企業等については役員報酬決定方針の策定が義務付けられたことになります。その具体的内容は、会社法施行規則98条の5各号に規定されています。

(取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針)

第九十八条の五 法第三百六十一条第七項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。

  • 取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この条において同じ。)の個人別の報酬等(次号に規定する業績連動報酬等及び第三号に規定する非金銭報酬等のいずれでもないものに限る。)の額又はその算定方法の決定に関する方針
  • 取締役の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社(会社計算規則第二条第三項第二十五号に規定する関係会社をいう。)の業績を示す指標(以下この号及び第百二十一条第五号の二において「業績指標」という。)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等(以下この条並びに第百二十一条第四号及び第五号の二において「業績連動報酬等」という。)がある場合には、当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針
  • 取締役の個人別の報酬等のうち、金銭でないもの(募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含む。以下この条並びに第百二十一条第四号及び第五号の三において「非金銭報酬等」という。)がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針
  • 第一号の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針
  • 取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針
  • 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項
    イ)当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当
    ロ)イの者に委任する権限の内容
    ハ)イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
  • 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(前号に掲げる事項を除く。)
  • 前各号に掲げる事項のほか、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項

また、これまでに発表されている行政機関等の役員報酬に関する関連指針についても、見てみることにしましょう。

まず、⾦融庁と東京証券取引所が作成したコーポレートガバナンス・コード(2015年6月より上場企業に適用開始し、その後改正)では、以下のように定められています。

コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版より)

【原則3-1.情報開示の充実】

上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。

  • 会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
  • 本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
  • 取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
  • 取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
  • 取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明

【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】

取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。
また、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。

補充原則

4-2① 取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

ここでは、コーポレートガバナンスの観点から、役員報酬決定の方針と手続き、役員など経営幹部選任の方針と手続き、について情報開示することが求められています。また、中長期的な企業価値向上に向け、経営陣のインセンティブとしての業績連動報酬や株式報酬の設定も記載されています。

更に、経済産業省が2018年9月に策定した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)では、より詳しい記述がなされています。

CGSガイドライン

経営陣の報酬体系を設計する際に、業績連動報酬や自社株報酬の導入について、検討すべきである。

  • 我が国企業の経営陣の報酬について、依然として固定報酬が中心であり、業績連動報酬や自社株報酬の割合は欧米に比して低い傾向にあると指摘されている。
  • 業績連動報酬や自社株報酬は、業績や株価の変動に応じて経営陣が得られる経済的利益が変化するため、中長期的な企業価値向上への動機付けとなる。
  • 自社株報酬については、それに加え、自社株を保有することにより、経営陣と株主の価値共有に資するというメリットもある。
  • 業績連動報酬や自社株報酬の導入を検討するに際しては、例えば各社の状況に応じて、以下のような要素を踏まえて検討することが有益である。
    ・自社が掲げる経営戦略等の基本方針に沿った内容になっているか。
    ・財務指標・非財務指標を適切な目標として選択しているか。
    ・自社の状況からして業績連動報酬や自社株報酬を導入することが適切な時期か。
    ・報酬全体に占める割合が適切か。
  •  報酬政策(業績連動報酬・自社株報酬を導入するか否かを含む)を検討するに際しては、まず経営戦略が存在する必要がある。その上で、経営戦略を踏まえて具体的な目標となる経営指標(KPI)を設定し、それを実現するためにどのような報酬体系がよいのか、という順番で検討していくことが重要である。経営戦略なくして、報酬政策だけを検討しても、経営陣に対して適切なインセンティブを付与することに繫がらない。

中長期的な企業価値に向けた報酬体系についての株主等の理解を促すために、業績連動報酬や自社株報酬の導入状況やその内容について、企業が積極的に情報発信を行うことを検討すべきである

業績連動報酬や自社株報酬は、企業が掲げる経営戦略等の基本方針に基づいて設計されるものであるため、その内容は株主等のステークホルダーの関心事である。かかる報酬の導入状況や内容について、企業が積極的に情報発信を行うことが有益である。

特にこうした中長期のインセンティブ報酬の比率の少ない我が国企業では、説得力をもった説明を積極的に行うことで、株主等からの理解や評価を得ることが期待され、報酬制度の見直しの後押しとできる場合も多いと考えられる。

CGSガイドラインでは、業績連動報酬や自社株報酬の導入を検討する際、

  • 自社が掲げる経営戦略等の基本方針に沿った内容になっているか。
  • 財務指標・非財務指標を適切な目標として選択しているか。
  • 自社の状況からして業績連動報酬や自社株報酬を導入することが適切な時期か。
  • 報酬全体に占める割合が適切か。

といった具体的な観点が記載されており、役員報酬制度検討の際の指針となります。

  • まず経営戦略が存在する必要がある。その上で、経営戦略を踏まえて具体的な目標となる経営指標(KPI)を設定し、それを実現するためにどのような報酬体系がよいのか、という順番で検討していくことが重要である。

と、役員報酬の前提としての経営戦略の必要性を指摘し、企業経営の本質的な視点についても述べられています。

更に、2019年1月31日には、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布・施行されています。報酬額等の決定方針、業績連動報酬などの開示項目が拡充されました。

企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(役員報酬に関する改正箇所等を抜粋)

開示項目(役員区分ごと)

  1. 報酬等の総額
  2. 報酬等の種類別の総額
  3. 対象となる役員の員数

開示項目(報酬額等の決定方針)

提出日現在において、提出会社の役員の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針について

  1. 提出日現在における方針の内容、決定方法。方針を定めていない場合はその旨
  2. 役職ごとの方針を定めている場合はその内容
  3. 方針の決定権限を有する者の氏名または名称、その権限の内容、裁量の範囲
  4. 方針の決定に関与する委員会(以下、委員会等)が存在する場合は、その手続の概要

開示項目(業績連動報酬)

提出会社の役員の報酬等に、業績連動報酬が含まれる場合は

  1. 業績連動報酬とそれ以外の報酬等の支給割合の決定方針を定めているときは、その方針の内容
  2. 当該業績連動報酬に係る指標
  3. 当該指標を選択した理由
  4. 当該業績連動報酬の額の決定方法
  5. 最近事業年度における当該業績連動報酬に係る指標の目標、実績

開示項目(その他)

  1. 提出会社(指名委員会等設置会社を除く)の役員の報酬等に関する株主総会の決議がある場合は、当該決議年月日、当該決議の内容、当該決議が二以上の役員についての定めの場合は当該定めに係る役員の員数。決議がない場合は、提出会社の役員の報酬等について定款に定めている事項の内容
  2. 最近事業年度の提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社の場合は報酬委員会)、委員会等の活動内容

その上で、今回の改正会社法による取り決めです。

ここ数年、上場企業の有価証券報告書等に記載されている「役員報酬に関する方針や基準」が格段に充実してきているのは、上記の指針や法改正に沿った動きと言えます。

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