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企業事例研究:京セラ、日清食品、JR東日本、JR東海、東北電力、イオンモール、豊田通商 個別役員報酬決定を社長一任

通常、指名委員会等設置会社を除く上場企業の役員報酬は、株主総会で報酬総額を決定し、具体的な支給方針等の判断は、取締役会に委任されます。更に、個別報酬額の決定については、取締役会決議により、社長や任意の報酬委員会に再委任することも少なくありません。

会社法施行規則98条の5では、取締役の個人別の報酬等の内容決定の全部又は一部を、取締役その他の第三者に委任するときは、以下の3点を定める必要があるとしています。

  • イ.当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当
  • ロ.イの者に委任する権限の内容
  • ハ.イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

任意の報酬委員会に委任する場合はともかく、社長など特定の個人に委任する場合は、投資家等からガバナンス上の問題を指摘される可能性があります。ウイリス・タワーズワトソン『2020年 役員報酬等の開示状況』調査では、JPX日経400構成銘柄のうち時価総額上位100社でも、社長等に一任している企業は約3割あり、そのうち個人別報酬額まで全て決定する会社は70%程度(3割×70%≒2割程度)あるということです。大手企業ですらこの値ですので、中堅以下の上場企業では、更に高い割合であることが予想されます。

今回は、有名企業で役員報酬の個別額決定を社長一任としている開示事例について、各社の有価証券報告書からピックアップしてみました。

まずは、創業者のカラーが強い、京セラと日清食品ホールディングスです。創業者というのは、商品開発から営業、財務・人事まで、すべての意思決定を担ってきたケースも多く、上場や代替わりからかなりの時間が経過した現在においても、社長権限を強めにしているのかもしれません。

京セラ株式会社

・取締役の個別の報酬額は、取締役会決議に基づき代表取締役会長及び代表取締役社長がその具体的内容について委任を受けるものとし、その権限の内容は次のとおりとする。

基本報酬 役位別の支給額の決定
取締役賞与 業績貢献度に応じた個人別の査定及び支給額の決定
譲渡制限付株式報酬 役位別の支給額及び割当株式数の決定

・取締役会は、当該権限が代表取締役会長及び代表取締役社長によって適切に行使されるよう、指名報酬委員会に各報酬の役位ごとの支給基準、算定方法または付与基準を諮問し答申を得るものとし、上記の委任を受けた代表取締役会長及び代表取締役社長は当該答申の内容に従って決定をするほか、決定をした支給額及び割当株式数の結果を指名報酬委員会に報告するものとする。

京セラ株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

日清食品ホールディングス株式会社

当社は、取締役会決議をもって、代表取締役社長・CEO安藤宏基に取締役の個人別の報酬等の内容の一部の決定を委任しています。委任する権限内容は、株主総会の決議による役員報酬(基本報酬)の限度額の範囲内で、当該設定基準に則って各取締役の基本報酬の内容を決定することであり、経営諮問委員会において審議・了承された取締役報酬の設定基準の内容に則り、権限を行使させることで本権限が適切に行使されることを確保しております。当社は、当社全体の事業や業績への貢献度という視点からの取締役個人の評価については、代表取締役に委任することが最適と判断しております。

日清食品ホールディングス株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

次に、公共色が強い、JR東日本、JR東海、東北電力です。これは、意外に感じる人が多いかもしれません。詳しい経緯や理由は分かりませんが、投資家など外部からの圧力が強まれば、横並びで変化するのではないでしょうか。

東日本旅客鉄道株式会社

取締役の個人別の報酬の内容についての決定に関する事項

取締役の個人別の報酬額(基本報酬・業績連動報酬)の決定については、取締役会において決議の上、代表取締役社長に一任します。代表取締役社長は、取締役の報酬額の決定について、透明性および公正性を確保する観点から、事前に独立社外取締役とその他の取締役で構成する報酬諮問委員会に諮り、報酬諮問委員会からの答申を踏まえてこれを決定することとします。

取締役の個人別の報酬等の決定に係る委任に関する事項

各取締役の業績評価にあたっては、代表取締役社長が、対象となる取締役に対して、年次計画およびグループ経営ビジョン「変革 2027」の達成に向けた目標設定面談およびトレース面談を実施することで、当期実績および貢献度等を確認しているため、取締役の個人別の報酬額の決定については、取締役会において決議の上、代表取締役社長深澤祐二に一任しております。第35期(2021年度)においては、2021年6月22日開催の取締役会にて代表取締役社長に取締役の個人別の報酬額の決定を一任する旨の決議をしております。なお、代表取締役社長は、取締役の報酬額の決定について、手続きの透明性および公正性を確保する観点から、事前に独立社外取締役とその他の取締役で構成する報酬諮問委員会に諮り、報酬諮問委員会からの答申を踏まえてこれを決定しております。

東日本旅客鉄道株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

東海旅客鉄道株式会社

当社は令和3年2月1日に人事報酬委員会を設置しております。当委員会は、役員の報酬等の決定における客観性、透明性の向上を確保する観点から、独立社外取締役と代表取締役社長を構成員とし、取締役会での決議に先立ち、役員の報酬等に係る決定方針等について審議しております。取締役会における報酬等の決定方針に関する決議は、当委員会における審議内容を踏まえて行われ、取締役会から委任を受けた代表取締役社長が取締役の報酬等の具体的な金額を決定しております。以上のような手続きを経て、取締役の個人別の報酬等の金額が決定されていることから、取締役会は、その内容が決定方針に沿うものであると判断しております。

東海旅客鉄道株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

東北電力株式会社

各人の支給額等については、業務全般を統括する社長による決定が適切であることから、取締役会における社長一任の決議を経て、社長樋口康二郎が決定しております。その権限の内容は、予め、指名・報酬諮問委員会での審議を経て定められた取締役(監査等委員であるものを除きます。)に対する支給額等の総額の範囲内における各人の支給額等の決定です。

なお、当該社長一任の決議は、客観性・透明性を確保する観点から、複数の独立社外取締役を含み、かつ独立社外取締役が委員長を務める指名・報酬諮問委員会での審議を経て行うこととしており、当事業年度においては、2021年6月25日開催の取締役会にて、一任決議を行っております。また、各人の支給実績を指名・報酬諮問委員会に報告することとしており、同委員会による監督が適切に行われていることから、取締役会は、その内容が上記の方針に沿うものであると判断しております。

東北電力株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

最後にグループ色が強い、イオンモールと豊田通商です。こちらも、やや意外です。イオン株式会社は指名委員会等設置会社のため報酬委員会決定ですし、トヨタ自動車株式会社も社外取締役を過半数とする「報酬案策定会議」決定としており、グループ企業全体の方針ということでもないようです。

イオンモール株式会社

各取締役の個人別報酬等の額の決定権限を有する者は、当社全体の業績を俯瞰しつつ各取締役の業績評価を行うのに適した代表取締役社長としております。権限の内容及び裁量の範囲は、各取締役の個人別報酬額(基本報酬+業績報酬)に関する部分となります。2018年11月開催の取締役会において「指名・報酬諮問委員会」の設置を決議し、2019年1月より運用を開始しております。同委員会は、代表取締役社長の諮問に応じて独立社外役員7名(2022年2月28日現在)を中心としたメンバーで協議し、代表取締役社長に助言又は答申することを目的としています。業績報酬は、会社業績及び同委員会からの答申を経て、各取締役の個人業績評価に基づき、決められた範囲の中で代表取締役社長が決定しております。

イオンモール株式会社 2022年2月期
 有価証券報告書より

豊田通商株式会社

当事業年度の固定報酬及び賞与に係る取締役の個人別の報酬額の決定は、当社取締役会決議に基づき当社代表取締役社長 貸谷 伊知郎に委任いたします。

当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容が取締役の個人別報酬等の内容の決定に沿うものであると取締役会が判断した理由

当事業年度に係る取締役の個人別の報酬等について、取締役会で決議された本方針と整合していることや、役員報酬委員会からの答申が尊重されていることを確認の上、当該決定方針に沿うものであると判断しております。

豊田通商株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

さて、非上場のオーナー企業であれば、「個別の役員報酬は社長が決めるもの」と考える会社が大半でしょう。上場企業でも、一昔前までは実質的に社長一任(子会社は親会社決定)が常識的であったと思われます。近年、コーポレートガバナンスへの規制やガイドラインが強化され、役員人事についても透明性や客観性が求められるようになりました。

個人的には、人事権や報酬決定権は、社長のリーダーシップの一部であると考えます。しかしながら、今の流れが戻るようなことはなく、「上場企業の社長は、役員の人事権や報酬決定権なしで、結果が求められる時代」に突入したと言えるのではないでしょうか。

2022年11月28日

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