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企業事例研究:役員報酬1億円以上の開示データから見る、会長と社長の報酬バランス

会長と社長、どちらの役員報酬を高くすべきか?

簡単そうで、なかなか難解なテーマです。役員報酬に関する各種調査を見ても、調査機関によって会長が高かったり、社長が高かったりします。同じ調査の中でも、集計区分ごとに会長と社長の上下が逆転しているケースまであります。

上場企業において、役員ごとの個別報酬額まで開示している例は稀ですが、1億円以上の役員報酬が支払われている役員に関しては、開示が義務付けされています。そこで、2022年の有価証券報告書から、会長・社長とも役員報酬が1億円以上の企業をピックアップし、考察してみることにしましょう。

ただし、いずれかが創業者や大株主である会社の場合は、配当金との兼ね合いなど、別のファクターも加わりますので、除外しています。

1.会長の役員報酬が社長より高い会社

まずは、伊藤忠商事です。岡藤会長の9億7,600万円に対して、石井社長は6億7,600万円となっています。月例報酬で2倍以上の金額差ですが、月例報酬は「各取締役の役位毎の基準額をベースに会社への貢献度等に応じて評価・決定」となっています。役員としての年数も大きく異なりますので、月額報酬は役位だけでなく、役員としての過去の貢献実績も反映された結果と考えられます。

また、業績連動賞与および業績連動型株式報酬の計算式が開示されていますが、役位別ポイントでも取締役会長10ポイントに対して、取締役社長7.5ポイントと、最初から会長の方が高く設定されています。

伊藤忠商事

単位:百万円

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伊藤忠商事株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

次に、富士フイルムホールディングス。こちらは、グループ会社を含む3社からの報酬となっており、やや複雑です。3社合計で、助野会長が3億6,300万円に対して、後藤社長が3億1,000万円となっています。固定報酬は、「職位・職責に応じて決定」としており、ホールディングスからの固定報酬は助野会長9億2,000万円、後藤社長8億7,000万円と、やはり会長の方が高めに支給されていました。

一方、業績連動報酬としてのパフォーマンス・シェア・ユニットは、社長には支給実績があるものの、会長にはありません。譲渡制限付株式報酬も「職位に基づき支給」としていますが、社長の方が多くなっています。

更に、グループ会社である富士フイルム株式会社からの報酬額は、社長の方が会長より高く支給されていました。そのため、同社に関しては、会長と社長の明確なランク付けというより、さまざまな組み合わせの結果、報酬総額としては会長の方が高くなったと言えるかもしれません。

富士フイルム(グループ会社からの報酬含む)

単位:百万円

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富士フイルムホールディングス株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

2.社長の役員報酬が会長より高い会社

今度は、社長の方が高かった会社として、三井物産を取り上げます。安永会長の3億800万円に対して、堀社長は3億3,900万円となっています。

基本報酬は「役位に応じて決定」としており、社長を会長より高く設定しているか、もしくは堀社長がCEOとなっていることによる報酬差であることが考えられます。先述した伊藤忠商事は、岡藤会長がCEOで石井社長がCOOでした。

一方、業績連動賞与の計算式における役職別ポイントでは、会長・社長とも10ポイントに設定され、賞与の実績も同額となっています。

三井物産

単位:百万円

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三井物産株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

次に、リクルートホールディングスを見てみましょう。出木場社長はグループ会社からの報酬との合計となっています。峰岸会長の5億2,400万円に対して、出木場社長は5億7,500万円でした。

ホールディングスからの役員報酬に限定すれば、出木場社長は4億5,700万円となり、峰岸会長の方が高くなります。

ちなみに、同社で役員報酬が最も高いのは、Rony Kahan取締役の6億3,000万円ですが、大半がBIP信託とストックオプションで、長期インセンティブとしての株式報酬となっています。

リクルートホールディングス(グループ会社からの報酬含む)

単位:百万円

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株式会社リクルートホールディングス
 2022年3月期 有価証券報告書より

3.会長、社長の役員報酬が同額の会社

会長と社長の役員報酬が同額という会社もあります。

ファナックは、稲葉会長、山口社長とも、3億8,900万円でした。報酬項目ごとの実績金額も、全く同額です。過去に遡っても、稲葉会長・山口社長の現体制となってからは、年によって報酬水準や報酬項目ごとの金額に変動はあるものの、両者の報酬総額は一致しています。

役員としての経験年数なども大きく異なるお二人ですが、役員報酬額については同額とする経営判断がなされているようです。

ファナック

単位:百万円

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ファナック株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

住友化学も、会長と社長の役員報酬額が一致しています。十倉会長、岩田社長とも、1億4,100万円でした。内訳である、基本報酬と賞与の額も同じです。

基本報酬は「役位別基準に基づいて決定」としており、会長、社長を同じランクに位置付けているようです。賞与の決定基礎額も、同様と考えられます。

住友化学

単位:百万円

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住友化学株式会社 2022年3月期
 有価証券報告書より

以上、会長と社長の役員報酬バランスについて見てきましたが、各社各様の結果となっており、明快な結論はなさそうです。ただし、会長も社長も代表取締役であれば、という前提となります。会長が代表取締役から外れている会社などでは、やはり代表取締役である社長よりは、低くなる傾向が強いでしょう。

2023年4月25日

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