日産自動車の役員退職金が話題となっています。2025年5月27日の各新聞社・通信社の記事見出しは、以下の通りです。
●日産の内田誠前社長ら4人に計6億円超 退任に伴う報酬(日経新聞)
●巨額赤字、大リストラでも… 日産、前社長らに計6億4600万円(朝日新聞)
●巨額赤字で2万人リストラの日産、退任の社長と3副社長に計6億4600万円の報酬(読売新聞)
●日産内田前社長ら退任の執行役4人に6億円(共同通信)
●日産、内田前社長ら4人に6億円超 退任に伴う報酬で―総会招集通知(時事通信)
各社とも、2025年3月期の当期純損益で6千億円以上の大赤字を計上し、国内外で2万人の人員削減を発表した経営状況とのギャップを指摘しています。
発端は、日産自動車の今年の定時株主総会招集通知に書かれている、以下の事業報告です。
報酬委員会が当社の内規その他の基準に基づき決定した、2025年3月31日付けで退任した執行役4名に対して支払った退任に伴う報酬646百万円
あくまで事業報告ですので、決定事項ということになります。
さて、今回のケース、ガバナンス上の問題はどこにあるのでしょうか。
同通知書の役員報酬制度については、以下のように書かれています。
執行役退任時の報酬等の決定方針
当社は、執行役が当社を退任した後一定期間、競業避止義務及び守秘義務等の義務を遵守すること、並びに 経営の適切な移行を促進することを目的とする、退任する執行役に対する退任時報酬等の決定方針を有してお ります。当該方針は、当社の報酬委員会の裁量により運用されており、報酬委員会は、執行役退任時の事実関係及び状況を踏まえて、退任時の支給の有無及び金額を決めることができます。
これは前年度の有価証券報告書にも記載されています。
事実、2020年7月の有価証券報告書でも、
報酬委員会が当社の内規その他の基準に基づき決定した、当事業年度中に退任した執行役4名に対して支払った退任に伴う報酬990百万円
とありますから、以前から続いている制度のようです。この2020年3月期も、連結当期純損失で6千億円以上の赤字を計上した年でした。
昨今の上場企業では、役員退職慰労金を廃止するケースが大半とはいえ、制度自体は一応株主の了解を得ていることになるでしょうか。ただし、退職時報酬支給の条件とされている「競業避止義務及び守秘義務等の義務を遵守すること、並びに 経営の適切な移行を促進」については、役員就任時の条件とすればよい程度のもののようにも感じられます。
仮に制度自体は株主の理解を得られているとすると、問題は運用ということになります。今回の6億円超という報酬額は、「報酬委員会が当社の内規その他の基準に基づき決定した」とあります。
日産自動車は、指名委員会等設置会社ですので、報酬委員会に取締役・執行役の報酬額を決定する権限が持たされています。同社の報酬委員会の委員は全て独立社外取締役ですので、建付け上は、最も報酬ガバナンスが利いている形式ではあります。
しかし、2020年に続き、今回の決定です。退職時報酬の支払い条件として、業績や経営状態が記載されていないことが支給理由になるのだと思われます。一方で、人員削減の対象とされた社員や株価低迷により損失を被っている一般株主から見れば、納得できないという声が多数派ではないでしょうか。
ちなみに、今回の株主総会の議案として、取締役報酬について、株主提案で出された以下の見直し案が記載されています。
取締役の報酬は、株主総会の承認を得て決定される。ただし、当社株価が前年度末比で10%以上下落した場合、当該年度の報酬総額は自動的に20%以上削減されるものとする。
この株主提案に対しても、取締役会は反対意見を表明しています。「取締役の報酬決定については、会社法の定めに基づく現在の仕組みにおいて、株主の利害を踏まえた十分なガバナンスが既に効いている状態にある」というのが反対理由ということです。
今回の株主総会では、上記議案に加え、社外取締役を含めた取締役選任の株主判断についても、注目したいと思います。
2025年5月30日