金融庁では、上場企業の有価証券報告書を中心に、「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」をピックアップし、まとめています。
個別事項に関する開示例
- 1.「新型コロナウイルス感染症」に関する開示例
- 2.「ESG」に関する開示例
有価証券報告書等の主要項目に関する開示例
- 3.「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の開示例
- 4.「事業等のリスク」の開示例
- 5.「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」の開示例
(1)「MD&Aに共通する事項」の開示例
(2)「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容等」の開示例
(3)「重要な会計上の見積り」の開示例 - 6.「監査の状況」の開示例
- 7.「役員の報酬等」の開示例
このうち、7.「役員の報酬等」の開示例として、2021年3月22日更新版では、アステラ製薬、アサヒグループホディンス SOMPOホールディングス、J. フロントリテイング、コニカミノルタ、丸井グループ、伊藤忠商事、三井物産、三菱UFJフィナンシャル・グループ、資生堂、三菱商事、カゴメ、味の素、武田薬品工業、大和ハウス工業といった企業の開示例が紹介されています。
日本を代表する大企業ばかりですので、役員報酬の構成として、
- 役位(社長、専務、常務など)に応じた固定報酬
- 短期業績インセンティブとしての業績賞与
- 中長期業績インセンティブとしての株式報酬
がバランスよく組み合わされており、短期業績および中長期業績の指標や評価基準についても、かなり詳細に記載されています。
役員報酬の決め方などは、一昔前であれば、社内でもごく少数しか知りえないトップシークレット事項でした。極端に言えば、会長・社長や担当役員以外は、当の役員自体も知らないといったケースが多かったのではないでしょうか。それが、報酬構成、評価基準、決定プロセスまで、投資家からだけでなく、一般の部外者からも極めて明瞭に見られるようになったのです。個別の役員報酬額についても、年収1億円以上の役員は開示しないといけませんし、1億円以下であっても、社内取締役の総人数が減っていますので、報酬総額と支給対象者が分かる以上、概ね個別の報酬額も見当がつくのです。
以下は、掲載各社の「短期評価指標」と「中長期評価指標」について、ピックアップしてみたものです。短期評価指標については、「利益」に関する項目が中心ですが、その業績指標は多岐に亘っています。一方、中長期評価指標については、利益指標に加え、株価指標を採用している会社が出てきます。
中長期インセンティブを株式報酬で支給するという時点で、役員に株価を意識させる意図が含まれていますが、報酬支給の基準にも株価(成長率)を加えることで、より株主視点での報酬制度となっているのです。もちろん、株価は株式市場全体の環境によっても大きく左右されるため、TOPIXなど株式市場の成長率と比較した評価基準が中心となっています。
各社の短期評価、中長期評価指標例
アステラス製薬
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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アサヒグループホールディングス
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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SOMPOホールディングス
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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J. フロントリテイリング
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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丸井グループ
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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三井物産
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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三菱UFJフィナンシャル・グループ
短期評価指標 | 中長期評価指標 |
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上記のような優良企業だけでなく、同業他社や同規模企業の役員報酬制度事例を調べることで、自社の役員報酬制度改定を検討する際など、非常に参考となるでしょう。上場企業の有価証券報告書は、生きた教科書と言えます。